底本では「少しづつ」]、バカです、バカでなければやれません
私もバカです、バカでした
それまでにたくわえられた若い命の
ありたけの力を一度にドッとたぎり立たせてシバイをしたのです
幸か不幸かその劇団では女優が不足していて
間もなく私に大きな役が附くようになり、
僅かの間にひとかどの女優として認められた
わきめもふらぬ一本気の熱演が
人の目をくらまして、そう思わせただけでしょう
ただ、やっと私の蕾は舞台の上で開きました。
シバイではじめて私のカラダと心に火がついて燃え出した
蕾が開く姿が美しいものならば
私は美しかったのかもしれません
心とカラダの燃えるのが幸福だというのならば
私は幸福だったのです

兄にもそれを言ってやりました
兄は喜こんで寝床の上で泣いたそうです
その頃、兄の容態は絶望状態になっていて
私にあてて出すハガキを書くのがヤットだったが
私に知らせると心配すると兄が言ってとめるので
母は私にかくしていたのです
かわいそうに! 兄は
昔、新劇の大部分が赤一色に塗りつぶされていた頃
新劇をいくつか見たことがあって
未だに新劇団というものが、そういうものだと思っていたのです、

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