まさか兄にしても、こんな、状勢になって来たのに
新劇が赤いシバイをすることが許されていようとは思ってなかったでしょうけれど、
まさか戦力増強のシバイをしていようとは
夢にも思っていなかった
それに、山田先生の影響力の下にある劇団です
まちがったシバイをする筈がない
そう思ったようです、泣いたそうです喜こんで
妹の私のために死にかけた寝床の上で
なんと言うミジメな食いちがい!
それを私は、その時は知りませんでした
私は花開き、燃えあがり、幸福だったのです
シバイのたびに徹男さんは見に来てくれます
見に来ても、ただ見るだけで
ガクヤに一度も来ようとはせず
言葉もかけず、ただ遠くから私を見て
軽く頭を下げただけで帰るのです
あの人が私のシバイを見に来るのが、なんのためだか
私にはわかりませんけれど、わかるような気もします
それでも、つまりがわからない
わからないなりに、うれしいのです
自分でも知らぬ間に、私は時々
徹男さん一人のためにシバイをした事に後で気づいて
ガクヤの鏡の中で真っ赤になったことがある
そうしては、山田先生の所の研究会の日が来ると
かえって、コツコツにまじめにこわばった心で
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