て働いていた
その半年の間も、家事の手伝いやお子さんの世話と勉強で私は忙しい
徹男さんも学校があり、それに兄さんの紹介で親しくなった青年将校や
革新団体の若い人々との集会などにも出ていたようで、暇はない
私とあの人が顔を合わすのは毎週二回の研究会の席上か
偶然に廊下ですれちがう時ぐらいです
話といえば堅苦しい思想の事や社会の事や時世のこと
ただの雑談を交したことは数えるほどしか[#「数えるほどしか」は底本では「教えるほどしか」]ありません
それよりも、この私の若さです
若さは強く一方の方へばかり傾けば傾いて行くほど
蕾は固くきびしく引きしまり、
外に開くのを忘れたようになっていた
いえいえ、外に開きたい無意識の本能が強ければ強いほど
内へ内へと烈しく引きしまって[#「引きしまって」は底本では「打きしまって」]行く。
たった一度、こんな事がありました。
研究会であの人が珍らしく物を言いはじめ
それが先生の意見と対立して
激しい論争になったことがあります
「僕は兄さんを尊敬しています
僕は兄さんから育てられた人間です
しかし兄さんは口舌の徒です
僕は理論を真実と思ったら実行する人間です
前へ
次へ
全91ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング