われました
「そうだ、君の兄さんの言われる通りだ
われわれには絶望は存在しない
君の兄さんと同じ頃私も検挙されて
関係が違うので私は一年ばかりで保釈になり、
いまだに保護監察所や内務省から
頭を撫でられながら尻を蹴とばされたりしているが
許される最高の意味で最大の形で
諦らめないでこうしてやっている。
君の兄さんはすぐれた人間です。
しかし、時代はあれから進んで来ている
世界も日本も、急速に新しい決定的な段階に突入しつつある
田舎で寝ている兄さんには
その辺の認識が充分でないかも知れない
われわれは時代をその現実に於て掴み
その中で自分の位置と力を客観的に置き据え
どうすれば与えられた現実の中で
真に進歩的であるかを考えなければならぬ
それがわれわれの任務だ!」
真剣に熱しながら、しかし学者らしく
その熱情をおさえつけて静かに
尚も先生はいうのです。
それは、田舎で兄に聞かされた事と同じ思想で、
言葉使いまでソックリ似ています
つまりマルクシズムでした。
先生はマルクシズムとはいわれません。
しかし、マルクシズムでした。
私には、それがわかりました
いいえ、わかったような気がしたのです
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