そういう事が度々あって、そのたびに
私は燃えるような気持で聞きました
兄が荒っぽく耕して置いてくれた私の頭に
先生の言葉が滋養分のある水のように
しみこみ、行き渡り、全身をひたして
ひとことずつに心の眼がパッチリと開いて行くような気がします
急に自分の背たけが伸びたような気がします
急に自分が強くなったような気がします

そのうちに気が附くと、
はじめのうちは兄と同じ事をおっしゃっていた先生が
兄が言った事のない事をおっしゃりはじめた
いつ頃からだか、わかりません
どのへんからだったか、気がつきません
すこしずつ、すこしずつ、兄のいわなかったような事が出て来ます
たとえば、それは日本民族の
世界史的必然だとか大東亜共栄圏だとか
天皇中心のアジア社会主義聯邦だとか
昭和維新の必然とか必要だとか。
はじめ私には、そんな事はよくわかりませんでしたし、
マルクシズムと、そう言う理想のつながり方ものみこめなかったのですが、
先生の話を聞くと、それがチャンと[#「チャンと」は底本では「チャンスと」]つながって、わかったような気がします。
「左翼的な進歩的思想は、既にここまで生成発展して来たし、来
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