渦の町です、
しばらくは、ただノボセたように
何を見ても何を聞いてもカーッとして、
町を歩くと、よく鼻血を出しました。

山田先生一家は快く私を受け入れて
もとの女中部屋の三畳の部屋をあてがってくださり
お子さんのめんどうを見たり家事の手伝い、使い走りに
しばらく過した後で
その頃先生が講師をなすっていた夜間の私立大学の
文科の聴講生に編入してもらって
勉強できるようになりました、
後から思うと、当時人手の不足した頃で
それまで使っていた女中が居なくなり
ちょうど私がそこへ来て、女中代りに使われたわけですけど
若い田舎者の私は
朝から晩までコキ使われても、苦になりません
何よりも、夜だけでも勉強が出来るのです
時々は先生の助手としてカバンを持って
教室や講演会へお伴をしたり
先生の書斉で原稿の清書をさせられたりするのも
おそれ多いような、誇らしいような、気がします
ただ幸福で、ワクワクと
夢中になって働らき、本を読み、
飢えたように、物を見つめ
先生の言葉に聞き入りました、
どんな物を見ても、言葉を聞いても
私には、すべて光りが強過ぎて
理解することはできませんでした、
理解しないまま
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