するのだから、
その覚悟でシッカリやらねばなりませんよ
兄さんとあたしの事は心配いりません
一番大事なことはミサオです
いったんこうと思いきめてはじめた事は
どんな事があっても、やりとげる
それが真人間のすることです。忘れないよう、
お母さんがあなたに、これをあげます」
そういって、母は懐剣をひとふりくれました
母が父のもとに嫁入りする時に
母の母からもらった物で
母は母らしい、ふるめかしい事をするものだと
少しコッケイなように思っただけです
その時の母の悲しそうな
涙のかれた眼を思い出したのは
ズッとあとになってからです。
そうして、東京に出ました
国を立つ時には母も私も泣きました
私の方がよけいに泣きました
甘い涙がおかしい位に出たのです。
兄だけは、寝ながらニコニコと嬉しそうに笑いました
東京!
長くつづいた日華事変が
次第に更に大きな戦争にひろがりそうな気配で
何もかも不気味に一方に傾きかけて
二・二六の事件でそれが爆発した頃で
東京のありさまも荒れすさんで来てはいても
九州の田舎から出て来たばかりの女学生に
それは、ただギラギラと光りくるめき
音を立てて、ひしめき、はなやぐ
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