しても、どうアガキが附くわけはない
兄もそれは知っていて、ハッキリそういったこともあります
おさえつけて来る黒い雲は厚い
一人や二人や千人の力でどうにもなりはしない
それだけに又、このまま此処にいるならば
せっかく萠え出ようとしている若い命の芽は
おしつぶされ、踏みにじられて、泥に埋まる
一日も早く今のうちに
風が烈しくなってもその中に立って
吹きたおされないで居られる程のものにはなしておかねば!
それには東京だ。兄は、そう思ったのです
幸い東京には、兄の高校時代の先輩で
思想的にも兄を導いてくだすった
山田先生がいて、いっさいを引き受けてくれると言います。
母は、最初は反対していましたが
しまいに寂しそうに、承知しました
かわいそうな気もしましたが
一方へ飛び立とうとしている幼い心には
そんな事もシミジミとはわかりません。
母は私が東京へ立つ前の晩に
裏の座敷で膝と膝とを突き合せるように坐らせて
「男であれ女であれ人間は、
いつでも、どこででも初一念を忘れてはなりません、
なんでもよいから、あなたがホントにしたいと思うことをおやりなさい
戦争は、ひどくなります
こんな中で東京で勉強
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