寄せてあたため合いながらの暮しが流れ、
私の十七歳の春のくれに
「東京に行け」と兄が言い出したのです。
それには、先ず私自身が、しばらく前から
母と兄とのそのような暮しに不足は感じないながら
なんとなく自分にはもっと見るべき世界が
もっと、どこかにひろがっているような
踏みこんで味わうべき生活の流れが、
もっともっと有るような気がしていた
それは幼い少女の、あてもないあこがれ心と、
兄が私のうちにかき立てた
人と生れたからには、自分のためにも人のためにも何かの事をしなければならないという気持との
いっしょになったものでした。
兄は兄で、前にいった自分の後つぎを私にさせる気があります、
その上に、熱意と愛情のあまり
兄があやまって私のうちに認めていた
芸術的な素質を伸ばしてやりたいと思ったようです
それには、東京だ。
そのころ既に満洲事変が中国との戦争状態に突き進んで行っていた頃で
もしかすると、もっと大がかりな状態にひろがるかもわからない
それを取巻く世界のありさまも暗い無気味な嵐の前ぶれの中にあって
若い娘の私一人が、どうしたところで
左翼的な政治や労働や思想の世界で
何かをしようと
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