hシと土間に足音をさせて、戸をガタンと開ける)うわあ、まるでこりゃ、まっぴるまよりや明るいや。いつの間に、お月さんが出やあがったい! たあ! 吹雪いてると思うと、お月さんだ。どうしただい、気ちげえ天気め!
お豊 (ハガキの文句を読む)……きれいな字だねえ「私は主人と共にイタリイに、来ています。か、これがそのヴェニスの――」
金吾 いいよ(とハガキをひっこめ、ふところに入れる)
お豊 あら、読ませたっていいじゃないかな。じゃけんだなし。
金吾 そういうわけじゃねえけんどよ――
喜助 (振り返って)どうしただい? まあ来て見ろいつの間にか良いお月さんだ。雪に照りかえってキレイだと云っても!
お豊 くやしいねえ! 人の気も知らないでさ、主人とイタリイに来ています! よくまあ、そったら事を書けたねえ!
金吾 そ、そんな、そんな事あ無えと言ったら! そったらお前――そんな事を、お豊さん、言ってもらっちゃ困るんだ。
お豊 いえさ、その春子さんと言うのが、とにかく人間ならば、ですよ――あら、どうするの金吾さん、そんな冷酒を口飲みなんぞして、あんた――?(金吾が立ったまま徳利から口飲みをする音がゴクゴ
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