という、川合壮六という人が三四里はなれた町に健在だと言うので、訪ねて行って、金吾老人の若い時からのことをきくことができました。
 以下、この物語に展開されるいろいろのことは、金太郎君の話と、川合さんの話を参考にしながら、金吾老人自身が書き残した日記帳をもとにして、年代順に並べただけのものであります。ちょうど日記帳の第なん冊目――明治四十年の分です――その真ン中ごろをひらくと――ここがそうですが――八月十日晴――そしてこれ一行だけ。馬流の壮六に頼まれ、東京の黒田様の案内をして落窪の奥へ行く――

[#ここから3字下げ]
(朗読の尻にダブって、カパカパカパとダク足で歩いて行く馬のヒズメの音。やがてガタンゴトン、ギイギイと車輪のヒビキ)
[#ここで字下げ終わり]

馭者 (ダミ声で馬に)おおら!(ムチを空中でパタリと鳴らして)おおら!

[#ここから3字下げ]
(カパカパカパとひずめの音。――この音は背後に断続してズッと入る)
[#ここで字下げ終わり]

春子 (少女の浮々した声)あららっ!
勝介 (笑いを含んで)なんだな、春?
春子 だってお父様、あのそら、あすこに見えるあの山が浅間だと、
前へ 次へ
全309ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング