二人の後から例の犬のジョンが、これもションボリしてついて来ました。この犬もずいぶんの老犬になっていて、もうヨボヨボになって、よくみると眼がほとんど見えないらしい。それがトボトボ二人の後をついて家へ帰って来たのですが、その晩、火じろのわきで金太郎君から金吾老人の話をいろいろききました。しかし、いかんせん、金太郎君はまだ若くて、若い時の金吾老人の話は知らない。なんだったら「おとつあんはごく若い時から日記を書いている」と言って、古い机のひき出しにキチンとして入れてあったその――日記といっても小さな汚れた手帳で、それが五十冊近く、毎年一冊書く習慣らしくて、冊数は年数と同じなわけなんですが、それを出してくれた。ひらいてみると、粗末な日記帳で、それに鉛筆で書いてあることはほとんど作物のことや農事のことが書いてある、農事日記です。自分の生活のことはごく僅かしか書いてありません。何月何日晴とか、今日は何処そこへ誰といったとか位のことしか書いてない。しかし私はそれを全部めくってみました。と同時に[#「と同時に」は底本では「と同年に」]、金太郎君に聞くと、老人と終生仲の良かった、もと農事指導員をやっていた
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