さっき、おっしゃったわね?
勝介 そうだよ。
春子 あら、だって、さっきは前の左側にあったのに、今、こうやって後ろにあるわ。
勝介 はは、だって、ごらん、うっすりと煙を吐いている。このへんに、そんないろんな火山は無いさ。
春子 そうかしら。
勝介 こうして馬車に乗っていると気がつかないが、これで、この辺の道はグルグルと、えらい曲っている。千曲川がこの辺では曲りくねって流れているからね、道はそれに添っているんだから。ねえ、あのう、なんとか君――川合君だっけ?
壮六 (案内の青年。馭者のわきの席から堅くなった口調で)はい? はあ、川合壮六であります。
春子 あら! あなた可哀そうと言うお名前?
勝介 これこれ春。
壮六 いえ、あの、川合と言う苗字で、名が壮六と言う――
春子 ああびっくりした。(クスクス笑う)
勝介 (これも笑いを含みつつ)こういう子だ、気にかけないでくれたまえ。
壮六 はあ、いえ。
勝介 佐久街道でも、たしか、このへんが一番曲りくねっていたねえ!
壮六 はい、そうであります。この辺からズーッとうん[#「うん」に傍点]の口から野辺山へかけて、はあ。
春子 あら、するとお父様
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