ェれにキツネにばかされたふりをする人間がいっぺえ居るようだからなし。はは、キツネの方じゃ濡れぎぬ着せられて、大きにクシャミこいてるかもしれんて。現に、ここの裏口にやって来るタヌキなんずも、今年みてえな珍らしい雪降りで、根雪になると山奥にゃエサが無くなるんで、食いものさがしにここらへんまでノコノコ出てくるだけだ。
お豊 やれやれ安心した。
金吾 うん、なにが?
お豊 いえさ、私なんずも大きに、こうやってチョイチョイここに来るのが、キツネが金吾さんだましに来てるように思われてんじゃないかと思っていたからさ。ふふ!
金吾 じょ、冗談言っちゃいけねえ、お豊さん。こうやって御馳走さげたりして来てくれちゃ、洗たくしたり、ほころび縫ったりしてくれるお前を、そんな――ありがてえと思ってるんだ俺あ。
お豊 (苦笑して)ふ! でも、考えて見るとかわいそうだわね。
金吾 うん?
お豊 いえさ、そのタヌキがさ。おなかすいてたまらなくなったのに里に出るのを、人をだましに来たかとイヤがられる。タヌキに生れついたのが運が悪るかった。
金吾 そりゃ、言ってみりゃ、そんなもんだが――
お豊 は、は!(沈みこんで行きそう
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