煬痰ウんはこんな一軒家で一人きりで暮して、よくまあ寂しくないわねえ? 私あ、来るたんびにそう思う。夜なんぞおっかねえ事あ無えかなあ?
金吾 馴れてやすからね。
お豊 いくら馴れてはいてもさ、こんな山奥だもの、変なもんが出て来たりしやしめえかという気はなさらねえの?
金吾 変なもん! バケモンかなし?
お豊 バケモンちうわけじゃねえけど、みんな言いますがな、アミダガダケの天狗さんにさらわれるの、モモンガアが出るのって。
金吾 ふふ、天狗さんやモモンガアにゃまだ逢わねえが、タヌキはちょくちょく来るなあ。二三日前も朝になって見たら、裏口んとこの雪の上一杯に足跡が附いていたっけ。梅鉢みてえな足跡でね。
お豊 へえ、タヌキ、ねえ。
金吾 今に一匹つかまえてお豊さんにタヌキ汁ごちそうするかな。
お豊 だましに来るとですかねえ?
金吾 だましに? 誰をな?
お豊 あんたをさ。
金吾 はは、俺なんずをだましたって、なんにならず?
お豊 そいでもタヌキやキツネは人をばかすとでしょ?
金吾 さあ、どうかな。タヌキやキツネよりや人間の方がよけいに人をばかすんじゃねえかなあ。借金の言いわけだとか、道楽の言いの
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