ネ自分の気を引き立てるように、明るく笑って)私なんずも、いつまでも笹屋に出ていると、キツネだなんて言われるからさ。こんな歌、金吾さん知ってる?(いきなり、投げやりな調子で歌い出す「チンタオ節」)海尻よいとこと誰が言うた、うしろはハゲ山、前は川、尾のないキツネが出るそうな、僕も二三度だまされたあ、ナッチョラン! はは、へえだ。誰があんた、両親そろって、しあわせに育った人間が飲屋の女なんかになるもんですか。家は貧乏身よりはチリヂリ、あっちもこっちもナッチョランかっ、尾の無いキツネにもなりますがな!
金吾 ……(なにか胸をつかれて返事が出来ず、シャリシャリと繩をなうだけ。戸外に吹雪の音)……
お豊 ……でも、こんな私みたいな女ごが、こうやってしげしげと押しかけてやって来たりするの、金吾さん迷惑でしょうね?
金吾 と、とんでもねえ――俺あ、どんだけ助かっているかしれねえんだ。ただ俺の方じゃ、なんのお礼も出来ねえんで、すまんと思ってね。
お豊 (苦笑して)お礼がほしくって来ているんじゃありませんさ。ただね、私がこうやって来ていると、世間じゃ直ぐに、今の尾のないキツネと言うやつでね、笹屋のお豊がば
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