スら冷てえもんかよ、豊ちゃんの前だが?
お豊 だけんど、どうしてまた、あんだけしっかりした人が、選りによってそんなお嬢さんなどに思い附いたもんだろうねえ? ほかに良い女が居ないわけじゃ無いだろうに――、
壮六 だからよ、ひとつなんとかしてくれよ、頼まあお豊ちゃん! お前はこうやってツトメこそしているが、内のおかつの学校友だちで、気心はチャンと知れてら。おかつも豊ちゃんなら金吾さんのお嫁さんにゃ打ってつけだと言うしよ。うっちゃって置けば男一匹、気ちげえになっちまわあ。お豊ちゃん、よろしくひとつ頼んます!
お豊 そんな事言いなしたとて、困りますよう! こんな事と言うもんは、そうそう考えた通りになるもんでねえんだから。
壮六 そんな事言わねえで、頼まあ豊ちゃん! 金吾をひとつ、男にしてやってくんなんし! そいで、春子さまなんずの情知らずを見返してやってくれ。こん通りだ!
お豊 あれ、そんなお辞儀をされたりしちゃ、困りやす。お前酔ったな壮六さん?
壮六 酔っちゃいる。だけんど、こいつは酔ったまぎれに言ってるこっちゃねえのだ。うるさく言うようだが――
喜助 (一つ置いた隣りの室から、酔った声)う
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