s六 はじめっから、手のとどかねえ高根の花だ。大の男でねえかよ、思いきりよく嫁取りする気になってくれと、附きに附いて言うが、へえ駄目だあ、あんまり言うと怒り出す始末でね。今度も、実あ久しぶりに俺あ、試験場が四五日休みになったんで落窪の奴の所に行って見ると、雪に降りこめられた一軒屋の火じろにもぐり込んだまま春子さまがフランスから送って来たエハガキをマジリマジリと見てけっかるじゃねえか。酒でも飲まさねえとこいつ今に気が狂うと思ったもんで、ひっぺがすようにして、こうして海尻くんだりまで連れて来たわな。
お豊 エハガキをねえ? だって、その春子さんと言う方あ、向うでお婿さんと御一緒でしょうが? それがヌケヌケと金吾さんにヱハガキを送るとは――いえ、御当人は御存知ないのだから仕方は無いけどさ――でも、いかになんでもムゴイわねえ!
壮六 だらず、お豊さん? 俺の言うのも、それだわな! そりゃ、知らない事だと言ってもだ、こんだけの金吾の思いが、ツンともカンともまるっきし通じねえと言うのは、あんまりムゴイぜ。いくら身分ちがいとは言っても、こっちは若い男で、向うは女だらず? え? おなごの心なんて、そっ
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