ナもよ、富士のお山に積りに積った雪でさえもだ、朝日が照れば溶けるつうだ! だのによ、だのに、女の心はなぜ溶けねえ、豊ちゃんの前だがよ?
お豊 なぜ溶けねえと言いなしてもさ――だからさ、その春子さんというお嬢さんは金吾さんのそういう気持、まるきり御存知ねえと言うじゃありませんの? 朝日が照りゃこそ雪も溶けようけんど、知らねえもなあ、これ、しょうねえわ。
壮六 しょうねえと言えば、しょうねえわい。はじめっから、あんまり身分が違いすぎら。峯の白雪、麓の氷と言うけんど、まるでどうも、当の金吾の野郎が、まるでへえ、オコリに取っつかれたみてえに、その春子さまにおっ惚れたくせにそいつをおっ惚れたんだとは自分でも気が附かなかった加減が、うん。あれから今日まで四年近く、こんだけ仲の良い俺でさえ、そうとハッキり気が附かなかったんだ。それがさ、おとどし俺もカカもらったし、金吾お前も嫁もらえと、馬流の姉さんともども、いくらすすめてもイヤだつうんで、なぜだてんで、問いつめ攻め立ててるうちに、そいつがわかって来た。可哀そうともいじらしいとも、しまいに俺あ腹あ立って来てなあ。
お豊 (ホロリとして)ほんとにねえ!
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