Eォー、ウォーと吠えるような汽笛が鳴り出して、あたりの物音の全部を消してしまう。」
「その汽笛が鳴りやむのと同時に、それとはおよそそぐわない調子の三味線の爪びきの音がポツンポツンと鳴り出す。……その背後に(隣室)酔ってブツクサ言っている男女の声」
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喜助 「お豊を出せえ! お豊を出せったら!」
おしん 「まあそんな事云わねえで、飲みなんし」
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その他ハッキリは聞えない。
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お豊 (爪びきで低音で歌う米山甚句。三味線も歌もそれほどうまいとは云えない)溶けて、流れて、三島へ、くだる……
壮六 (酔っている。歌をひきとって)富士の白雪……(棒のように歌ってから、あとは、節をつけないでどなる)朝日で溶ける! ウソだい! 溶けるもんけえ! 溶けて流れて三島へ――なんぞくだるもんけえ。そったら事あ大嘘だらず、馬鹿にしさって!
お豊 (三味線をわきに置いて)まあまあ壮六さんよ、そんなに怒るもんじゃありませんよ。いつもあんなに機嫌の良い人が、今晩は、はなっから荒れっぱなしだなし。
壮六 へっへ、これが荒れずにいられるか。歌の文句
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