すだけで、ただ五日に一度一週間に一度と、あの山小屋に行っては部屋の中の掃除をしたり、古びてこわれかけた居まわりの修繕をしたり、小屋の外の畑の手入れをしたりするだけです。その山小屋とその周囲の山林は、なんでも東京の黒田という家の所有になっている、それの管理一切を老人は古くから委されているらしいようなことでした。こんなふうに私はこの一家と知り合いになっただけで、別にそれ以上立ち入るということもなく過ぎていましたが、そうこうしてるうちに夏もすぎて秋も深まってきたので、私は東京へ帰らなければならなくなり、金吾老人と金太郎君とも別れを告げ、宿屋を引きはらって東京へ戻ってきたのです。次の年もだいたいその辺に行きたいという気でいましたが、やがて時勢はますます急迫して太平洋戦争がはじまり、その間、ご承知のとおり日本はさんざんなことになって、戦争は終り、終戦の次の次の年、その秋の末頃です、もういくらか肌寒くなったころ、思いたって私は信州へ行ってみました。そして金吾老人の家へも訪ねて行きました。そしたら金太郎君は非常に立派な青年になっていましたが、金吾老人はその前年、――つまり終戦の年の次の年に、もうすで
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