て、時々その家にも立ち寄るようにもなりました。その一家といっても、家族の全員はその老人とその少年と犬だけで、女気は一人もない。その家はあのカラ松林の落窪部落よりのはずれにあって、少年が黒田の別荘と言った例の山小屋までは、ほとんど半道以上も距離がある所にポツンと建っている一軒家です。老人は柳沢金吾という名前で、息子の少年が金太郎という名前だったのには思わずほほえんだことです。ただし金太郎君は金吾老人の実の子ではなく、小さい時に養子に貰われたもののようでした。金吾という老人はこの地方きっての精農家で、ことにこの地方は土地が高いせいで、秋から冬へかけて大変冷える――つまりいうところの寒冷地――その寒冷地における稲作については非常な研究と成績をあげている人である、ということがだんだんにわかってきました。居間から座敷の鴨居に、県や農会やなどから与えられた表彰状、褒状などがずいぶんたくさんかけられています。落窪の部落にある農民道場からなども農作の仕方について話をしに来てくれるようにと懇請されているらしいが、いくら請われてもそういう所へは行かないようでした。そして毎日コツコツ田圃仕事や畑仕事に精を出
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