い者のようなツヤが残っている。……そのうち非常に香ばしい、いい匂いがしはじめたので、何だろうと思っていると、老人はそれと察したのかニコニコと眼を小さくして、焚火の灰の下をほりおこして、コンガリ焼けた饅頭のようなものをいくつかとり出して、その一つを手の平にのせてポンポンと灰をたたき落してから、私にさし出して食えというのです。何だろうと思いながら口に入れると、コンガリと焼けたソバ粉の匂いのする餅のようなもので、中に塩アンのアヅキが入っている。噛んでみると非常にうまいものです。「何ですか」ときくと「オヤキだ」という。ソバ粉をねってこうして食うのだと少年が説明しました。老人は少し歯の抜けた口を開いて気持よさそうに高笑いをしながら「水をくんでくるかの」と立上って向うの傾斜をおりて行きました。私は先日老人に会った時のことをちょっと言うと、少年は「ああ黒田の別荘づら、あそこに行ってる時のおとうに何か言ってもダメだ」そういいます。何かわけがありそうに思いましたが、それをきくのは失敬なような気がして、その日はそこでオヤキとお茶をごちそうになって私は立ち去りましたが、それ以来、その老人一家と知り合いになっ
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