な犬が走って私の方に近づいて吠えはじめました。
私はいたたまれなくなって、そそくさと林の方へ立去って行きました。
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(音楽)
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作者 私が再びその老人にあったのは、それから四五日後のことで、そこから二三キロもはなれた山の畑の中です。そこらは切り開かれてずっと高原の一面の畑になっているところで、やっぱり犬の声で、眼をやると、畑のフチに休みながら焚火をしているお百姓がいて、見覚えのあるその犬もいる。焚火にあたってタバコを吸っているのはこの間のその老人で、今日はもう一人別に十六七の少年がわきに坐ってこっちを見ています。私はこの間のことがあるので、なんとなく老人に向って目礼をすると、先方も犬を叱りながら焚火の方へ私を招じるような態度を示し、それで私は「こんちわ」といいながら、二人のそばへ寄って行きました。老人の態度は、先日山小屋の窓から私を睨んだときとはまるで別人のように柔和で、あのときのあの老人とはどうしても思えない位でした。年は既に六十前後でしょうが、生き生きと始終ほほえんでいるような、よい眼をしていて、頭髪やヒゲは半白だが、顔の皮ふには若
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