リと出ました。そのちょうど真中に、この辺りには珍らしい別荘風の――と言うのは、軽井沢あたりと違って、この辺には東京の人たちの別荘など、まだほとんどないのです、古びた山小屋が建っています。平屋建の壁は全部丸太を打ちつけた式の、なかなか趣味のいい建てかたをした家でした。垣根も柵も無いままに知らず知らずその家に近づいて、窓から中をのぞきこみました。内部は大きな広い部屋が一つあるきりの、しかし石を畳んだ暖炉があったり、ガンジョウなつくりの椅子やテエブルなどが見られて、すぐにも人が住めるようになっていますが、しかしいかにも古びはてています。人の影は何処にもみえない。どうした家だろうと思っていると、不意に横手の押上窓をガタンと開けて、一人の男が顔を出しました。この辺の百姓によくある姿をした半白の老人ですが、異様なのはその表情で、ほとんど噛みつくような、憎悪とも嫉妬ともとれる毒々しい目でこちらを睨んでいる。私は何となくドキリとして挨拶をするのも忘れて立っていましたが、彼はいつまでたっても何とも言わないで、その目で私を睨みつけているだけです。その中に家の後へでも廻っていたのか、秋田犬の系統に属する大き
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