金吾 えらいのなんのと、そんなこっちゃ無えですよ。わしらはそうしねば食って行けねえからしようことなしにすることだ。
香川 だからさ、僕らみたいに学校教育の中にアンカンとしてるだけでは、しょうが無いんだな。実あね、今度来てみるまではそれほどにも思っていなかったけど、例の水田ね、一昨年やって来た時、君あ、あすこにホンの十坪ばかりを囲って水を入れてジャブジャブひっかきまわしていたんだ。僕が見ても、まるで子供のママゴトみたいで、トボケタ話だと思ってたんだ。それが今度来て見たら、そうさ、あれでいくらの実も着いちゃいないけど、とにかく稲が育っているんだ。驚ろいちゃった。黒田先生もそう言っていられた。とにかく考えていては、出来ることじゃないって。
金吾 いや、わしら、考えようにも、そったら頭あ無えんだから、たゞめくらめっぽうにやって見るだけでやして。それが時には、まぐれ当りに当るだけでね。もっとも、あの稲についちゃ、半分は川合の壮六の骨折りだ。彼奴は俺のためにはるばる試験場からいろんな種もみ運んで来ちゃ、泊り込みで加勢してくれてね。奴は稲作の事にかけちゃ、あれで随分勉強もしてやすから。
香川 だから
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