さ、その川合君の勉強にしてからがさ、直接にこゝらの土地や百姓と取りくんでする勉強と、僕等が教室で教わる学問との違いだよ。
金吾 そら、壮六と言う野郎は偉うがす。ヒョンヒョンと、いつもヨタばっかり飛ばしているが、中学校も二年ばかし行ってるしね。は、あの稲が二つ三つ花を附けた時の彼奴の嬉しがりようと来たら!
香川 そうだろうなあ……
金吾 アゼに立って、歌あ歌って盆踊りを踊り出す始末だ。しまいに、俺の頭あ、ぶっ叩きやがったっけ、はっはは。
香川 わかるなあ、その気持は。……(泥を叩く)川合君と言えば、ここんところしばらく、やって来ないなあ。(チョット歌の真似)やーれ、盆が来たのにっと。……歌がまだ習いかけだ。やって呉れないかな。
金吾 奴も忙しい身でねえ。この秋あの水田で育った稲から米の一升でも取れたら、その祝にあのタンボで酒え飲んで踊るんだなどと言ってる。……(石で床を叩きつゝ、歌の続きを口ずさむ)踊らぬう奴は、と。
香川 妙なことで、こんな所に来さしてもらって、君や壮六君などと知り合いになって、僕あ実際、思いがけない大事なことを知ったな。……(歌のつづき)木ぶつ金ぶつ。
金吾 (歌)石
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