この人だけはどうしても諦めきれず、もう一度春子さんのホントの気持を聞いて見たい、なんとかして機会を与えてくれなんとかしてくれと泣くように言いますので、私から春子さまに頼みますと春子さんは例の調子で、さあさあとおっしゃいますので、春子様のお父様と春子さまと私に、香川、この四人が信州に行って、その夏を暮したのです……ちょうどそれは、別荘と自家用の炭を焼くために金吾さんが炭焼きがまを築くと言いますので、二三日前から香川は手伝いに通っていて、私と春子さんはあとから、その小川の岸に行くことになっていました……

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川のせゝらぎの音。遠く山鳩の声。石の上に泥をベタベタと叩き塗る音と、時々(石を石で叩く)ドシンドシンと石で地面をならす響。
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香川 (「札幌農大寮歌」をハミングしながら、それに拍子を合せて、炭焼ガマの外側に泥を塗っている)……。さあて、こっちは大体よしと。金吾君、上の方もズッと塗るの?
金吾 (声が出くぐもって聞えるのは、半出来のカマの内側にもぐり込んで、その下方を石でならす仕事をしているからである)いえ、上の方は結構でがす。それは原木を
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