のことを思うたびに、私はその樹氷の姿を見るような気がいたします。
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音楽
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あれは、私と春子さんが学校を卒業した年の夏でした。又々すゝめられるまゝに、春子さんの信州の別荘に行ったのですが、その前の年の暮れに春子さんは例の遠縁にあたる敏行様と御婚約が出来ていたのです。敏行さんという方には、そのころフランス駐在の外交官をなすっている伯父さんがありまして、その方のすすめで、大学は途中でやめて法律の勉強のためパリに渡られたのですけど、それを前にして春子さまに対してタッテとの申込みでして、春子さまはあの調子で、軽々しいと言いますか、そうなれば自分もフランスに行けるからと言ったようなお気持だったと思います。お父さまは何事につけても娘さえ幸福ならばと春子様まかせ、それで、婚約が成り立って、敏行様はフランスへ出発なすって、半年もしたら春子さまを向うへ呼び寄せると言うのでした。そういう、つまり春子さまにとっては娘としての最後の夏と言うわけで、それまでの沢山の求婚者たちは、ガッかりして引きさがったわけでして、私のイトコの香川賢一もその失恋した一人でしたが、
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