るあんなに深い気持を見はぐっていたことに就いては、ホントに私は自分が許せないような気がするのでございます。春子さんは、あの調子で気づかなかったのは、仕方がありません。しかしこの私は、私ぐらいは、それをわかってやらなければならなかったのです。それがわからなかった。もっとも金吾さん自身が、春子様にそれほどナニしながら、あんまり身分やなんかが違い過ぎるせいでしょうか、自分の心の上に何が起きたのか、自分でも気が附かなかったようですの、最初から望みを持つ――も持たないも無い、はじめっから、まるで諦らめている、いえ、手に入れようと望みもしないのですから、諦らめるという事も無いわけです。そういう事もあるのでございますねえ。……ズッと後になって私、樹氷というものを見たことがございます。所も同じ信州の高原地の冬のことですけど、物みなが凍てついて静まり返った零下二十度からの夜明け方にあちこちの樹の幹と言わず、梢と言わずホンの一瞬のうちにビシリと氷りついて、それが朝陽に真白くキラキラと光り輝いて、それきり春先になるまで溶けないのです。その冷たさ、美しさ、不思議さと申しましたら! 春子さんに対する金吾という人
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