ねえ、あれはあれっきりになったが、僕あ、やっぱりなんだな、札幌あたりの大学の空気の中に何かしらん良く言えば詩的、ハッキリ言うと感傷的な気分があると思う。つまりトルストイとフエビアン主義を突きまぜたと言うかなあ、日本で言うと内村鑑三と安部磯雄を合せた式のさ。それが気に入らないんだ僕なぞは。社会主義なら社会主義で、もっと実際的な、たとえば片山潜や堺利彦なんかの行き方なら賛成するしないは別として、とにかく僕あわかるんだ。どんな綺麗なものでも夢のような感傷論じゃ問題にならないと思う。
香川 いやあ僕あ、そんな事言ってるんじゃないんだ。それに、札幌のうちの大学が全体として僕と同じような気分の学校と思われちゃ、大学が迷惑するよ。ただ僕は今の時代を見渡して見て、こんなように貧富の差が甚だしくなって、一部の特権者と富豪がぜいたくしている一方、そのギセイになって貧乏な階級が、あまりに多く、そしてあまりに苦しみ過ぎている。その現象を無視していてよいかと思うんだ。ただそう思うだけで、僕あ何も社会主義者じゃ無い。
敏行 社会主義者なら、まだいいと、だから僕あ言ってるんだ。感傷主義からは、なんにも生れてきやしな
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