ちろん、八つが岳から鹿だとか、時によるとアナグマなどまで出て来たりした時分で、そういうへんぴな山の中に、いくらカラマツの植林の研究のためとは言いながら別荘を立てたりした黒田先生という方もあれで変りもんだったんでしょうな。なあに、見たとこは極く温厚な学者でしたよ。とにかく、よっぽどあの辺がお気に入ったらしい。もっとも、なんでも、その春子様というお嬢様を生んだお母さん、つまり先生の奥さんが急病で亡くなられた北海道の山の中があの野辺山の景色にソックリと言ってよいほど似ているそうで、そんなことから先生もあの土地が好きになられたとかで春子様も別荘を建てるならあの辺にしろとねだられた様子でした。……そいで最初からの引っかかりで、柳沢の金吾が別荘を建てる世話を全部やきましたが、それ以来ズーッと黒田様の山と別荘の管理をすっかり委されることになったのです。金吾は私とは同じ村の幼な友達ですが、もともと身寄の少い男で、親父というのが若い時分から山気の多い男だったそうで。金鉱探しに夢中になって家を留守にしちゃあちこちの山を飛び歩いていて、しまいには東北の山ん中で死ぬ。残された母親が金吾とその姉の二人姉弟を育て
前へ 次へ
全309ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング