て来たんですが、苦労つづきで亡くなってしまった後は、金吾は姉の片づいた先の百姓家に引きとられて大きくなったような身分で。まあ、一日も早く一人立ちしなくちゃならんと言うんで十八九の時分から、あちこち雇われたり日よう取り稼いで金をためては、そいつでもって、どうせ高い土地は買えはしないつうので、まだ誰もつけない落窪のはずれの山を一段二段と買い込んでは開いていたのです。ちょうどその時までに五六段は自分の土地として、ボツボツとソバなんぞ蒔いていたんでやして、そこへ黒田さんの別荘が近くに建ってその世話をまかされる、同時に、黒田先生がだんだん金吾の人がらに打ち込んで来なすって、そんなわけなら小さいながら自分の家を建てたらどうだと言うので、別荘を建てた大工をまわしてやったり――いえ、金を出してもらったりはしなかったようです。金吾という男は、おとなしい人間じゃありますが、そういう、人がよくしてくれるのに甘えてわけの無い世話を受けたりすることはしない男でしてな、材木から何から、かかり一切は自分の力でやって、はじめは掘立小屋みたいな家をたてて、そこでとかく一戸をかまえた百姓で暮すようになったのです。……毎年
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