その音)
壮六 そう言えば、あの前からおのしは、あのお嬢さんのツラばっかし見ていたなあ。
金吾 ……(木を切る)
壮六 おかしな野郎だ、おのしと言う男も。
金吾 壮六、お前もう帰れよ試験場へ。仕事の邪魔だ、そこでいつまでもゴヂャゴヂャしゃべくってると。
壮六 わっはは! 帰るともよ、はは。誰がこんな寒い所にいつまでも居るもんだ。小諸の大工が、もうへえ材木はすっかりきざみおえたから、こっちがよければ直ぐに運送に頼んで四五日中にでもここの建て前にやって来るつうから、県庁の斉藤さんに頼まれて様子見かたがた、やっち来ただけだ、俺あ。こいだけ地形が出来てれば、オーライだらず。
(枯小枝をポキポキ言わせて歩き出している)戻ったら、斉藤さんにやそう言っとくからな。
金吾 そうか、御苦労だ。あずかってある銭あ、まだ足りてるからな、そう言っといてくれ。黒田様の方に俺も手紙出すにゃ出すが。
壮六 (歩いて、ゆっくり立去って行きながら)年内にゃ、するつうと、ここに別荘が建っちまうだなあ。そいで、来春になると皆さんでおいでる。あのお嬢様も御一緒だらず、お前はここの世話やき頼まれてっからな、まあま、金吾、あの人
前へ 次へ
全309ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング