どうせ千疋屋ぐらいはおごらされるのは覚悟しているんだから、そっちで、おっそろしく高いチョコレートかなんか飲みます。
春子 まあ、にくらしい! あんなことおっしゃるから、いいわ鶴!
敦子 ホホ……
敏行 はははは!
鶴 さよでございますか。それでは。(その前を三人が笑いさざめきながら室を出て行く)

音楽 (オルゴールの曲。今度は三十分おきの簡単な曲)

音楽 やんでチョット静かになってから、寂しい、はるかな山鳩の声が、ポッポー、ポッポーとひびく。

金吾 うっ!(と言って木の根元を切る。その音がガッ! と鳴って森にこだまする。つづけて二打ち三打ち)
壮六 (笑いを含んだ声で)なあおい金吾よ!
金吾 おいよ!
壮六 この夏、黒田さまを案内して来た馬車の中でよ、なんでお前、あんな出しぬけに泣き出しただ? うん?
金吾 ……(返事をせず木を切る)
壮六 どうしてだ? ありゃ仔馬あ見てる時だったが、この辺で仔馬見るたんびに泣いてたら、それこそ、眼なんぞつぶれるべし。……なんちつたつけ、春子さまか、あのお嬢さんが涙あ出したから、お前も泣いたのけ? うん? 何とか返答しろ!
金吾 ……(木を切る。
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