と約束していながら、急に群馬県の方へ出張しちゃって、上野へは敏行さんに連れて行ってもらう事になっちゃったり。
敦子 そう言えば長与様は、だいぶおそいようね。もうそろそろ半よ、十二時。
春子 あの大学生は、おしゃれだから。それに今日は敦子様と言う美人が一緒だって敏行さん御存知だから、念入りにお仕度中でしょ。
敦子 まあ、おぼえていらっしゃいまし!

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ドアにちょっとノックの音がして。
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鶴 (ばあやと言ってもまだ中年の女)ごめん下さいまし。
春子 ああ、鶴や、どうして? 敏行さん、まだ見えないの?
鶴 はあ。ただ今お見えになりまして……
敏行 (足音をさせて廊下口から入って来て)やあ、お待たせしました。(敦子と春子に)今日は。
敦子 今日は。(辞儀)
春子 敏行さん、御苦労様。でも随分待ったわ、ねえ敦子様?
敦子 ホホ……(静かに笑っている)
敏行 じゃ直ぐ出かけますか?
鶴 でも長与のお坊ちゃまに、お紅茶でも差し上げましてから――
敏行 いや、いらない。どうせ春さんたちのお伴だ。それに今日は上野へ行く前に銀座を案内しろと言う御註文だもの。
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