り附けて甘たれはじめたでしょ? 見てて私、いっぺんに涙ぐましくなっちゃった。お母様! お母様! あたしのお母様はどうして、お亡くなりになっちゃったの? と、そう思ってね、ホントに泣いたかもしれませんの。それを見てて、その金吾と言う人、貰い泣きしたんだとおっしゃるの、お父様は、そんな事ってあるかしら、あんな、まるで銅像みたいな田舎の人が?
敦子 そうねえ。……ああ! もしかすると、その人にも、もしかするとお母さんが無くて――小さい時にお母さん亡くしてて、やっぱし春子さんと同じように、その仔馬と親馬見てて、それを思い出したのかもしれないじゃありませんの? そうだわ、きっと!
春子 そうかしら? だって、それにしても、そんなことツンともカンとも感じたりするような人じゃないのよ。まるで銅像みたいな、熊みたいな、そうだわ、マダム・フーリエに言わせると、ソヴァージュってやつのお手本みたいな[#「みたいな」は底本では「みたいう」]人よ!
敦子 そりゃ、しかし、そんなような人が、かえって心の中はやさしいかも知れなくってよ、案外。
春子 そうかしら。でもそりゃ敦子さんが、その人をごらんにならないからだわ
前へ 次へ
全309ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング