そのミットみたいな手をこうして、こうやって、ううう! おおうう! おおうう!
敦子 ホホ、大げさね春子さんは、ホホ!
春子 ノン! 大げさじゃないの。オー ノン! これ、マダム・フーリエよ、学院の。オー ノン! まったくの、その通りの、ホントなの。泥だらけの手がね、私の手の五倍ぐらいあるの、敦子さん、ごらんにならないから信じられないでしょうけれど。こんだお父様に証明してもらってもよろしいわ。
敦子 どうして、しかし、そんな大きな男の人が、そんな、仔馬が親馬の所に駆け寄ったのを見たぐらいで、泣くんですの?
春子 それがわからないから、こうしてお話してるんじゃありませんか。お父様は、それはお前の貰い泣きをして泣いたんだろうとおっしゃるけど、そんな筈は無いでしょ? そりゃね、私、この夏の旅行では、はじめっからお母様のことを考えてて、ことに信州のあの辺の景色は北海道によく似てる似てるとお父様からも言われているんで、私、しょっちゅうお母様のことばっかり思っていたの。そこへ、赤ちゃんの仔馬が気が狂ったように飛び出して、どうしたんだろうと思って見ているうちに、お母さん馬の所に駆け寄ってお腹に頭をこす
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