わよ! ころぶわよ! どうしてあんなに、ピョン、ピョン駆け出すんでしょう?
勝介 うむ、この馬車を見てびっくりしたのかな?
春子 かわいそうに! ほら、けつまずいたわ! 今に転ぶわ!
壮六 (笑いを含んで)いえ、あれで、なかなか転んだりはしません。生まれ落ちると一時間位で直ぐトコトコ駆け出すもんでがして。
春子 だってあんな川原のゴロタ石ですもの下が。転んだら脚が折れてしまうわ! あんな小さい――まだ一年位きゃ経たないんでしょ、生れて?
壮六 はあ、いえ、まだ三月そこそこでやす。
春子 三月? そいじゃまだホンの赤ちゃんじゃありませんの。石の上をあんなに駆けては爪だって痛いわ、キット。なんとかならないかしら? えお父様、なんとかならないかしら?
勝介 しかし、小さくても、とにかく馬だからね。
春子 だって、かわいそうじゃありませんか! あらら! あんなにアワてて! この馬車よ。この馬車にびっくりしたのよ! ね、馬車をとめて! お願い!
壮六 (しょうことなしに、馭者に)おい、小父さんよう、ちょっくら、停めてくんない!
馭者 ああん? もっと早くやるか?
壮六 そうだあねえ! 停めてくれ
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