の部落をこの馬車が通りますが、その先生のおいでになる野辺山が原の、ちょうど入口にあたる所でがして。
(窓の外を見て)千曲川が、もう間もなくグッと曲りこんで、この道と離れてしまいやすが、するつうと、道はのぼり一方になりやして、その登りつめた所が落窪で、そこから、野辺山が原でやして。
勝介 そうかね、じゃ都合で、私も金吾君に頼んで、その近くに山を買って小屋を建てるか、どうだね。お世話願えまいか?
壮六 そうしていただけりゃ、私らの方もありがたいわけで。なあ金吾?
金吾 うん……
壮六 (じれて)お前どうしたつうんだ? さっきから眼ば据えて、うんうんと言うきりでよ。
金吾 ふう……(今度は低くうなるような声を出す)
勝介 (笑って)まあいい、まあいい、ハハ。
壮六 (取りなすように)いえ、ふだんはこうじゃ無えんでがして。いえ、ふだんから無口な奴じゃありますが、しかし、こんなどうも。なあ金吾よ!
春子 あら!(これは先程から窓の外ばかり見ていたのが、何かを見つけて叫ぶ)あれ、どうしたんでしょう、お父様あんなに、あわてて駆け出して――
勝介 どうした?
春子 ほら、ほら、赤ちゃんの仔馬! ころぶ
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