@姉ちゃんなまだ知らねいかよ。ほれ見ろ、すぐ下が県道だが。
お仙 あれまあ、ほんまだ。
金太 春子おばさまとお父ちゃんはどうしたずら? 呼びに行ってこうか?
敦子 ああ、金吾さんと春さんは、さっきの曲り角を右に行ったんじゃないかしら。ほっときなさいよ。どうせそんな遠くへは行けやしないわ。
金太 だってあれを右に[#「右に」は底本では「石に」]行くと、川の上のえらい崖っぷちに出るぞ。
敦子 なに、金吾さんがついているから大丈夫。ああ、いい風――金太ちゃん、さっきうたっていた歌は、あれは何のうた?
金太 うん? ああ、あれは農民場道の衆たちがうたう歌だ。
敦子 そうお、いい歌ね、元気のいい。おばさんも歌をひとつ教えてあげようか?
金太 うん、教えて。

[#ここから3字下げ]
激しい谷川の水の音。
その谷に臨んだ崖の上に、金吾と春子が出て来た足音。
[#ここで字下げ終わり]

春子 ああ、くたびれた。こんなに私の足は弱かったのかしら。ちょっと休んでいかない金吾さん。
金吾 春さん、こっちへ坐りなして。そこは危い、下はえらい崖だから。
春子 (ヒョイとふり返って叫声をあげる)あっ! まあえら
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