ら、どうして? そんなこと言わないで連れてってよ、ねえ金吾さん。
敦子 それよりも春さん、ずうっと昔、これとおんなじようなことがあったのを覚えてる? みんなで八つ岳に登るんだと言って、ここで金吾さんにネダって、案内してもらったこと?
春子 そうお? そんなことあったかしら……(頼りなさそうに言う)
敦子 春さんはなんでもかでも忘れて[#「忘れて」は底本では「忘れれて」]しまうのね。
春子 ごめんなさいね、敦さん。私、頭が悪いでしょ、思い出せないの。
敦子 (相手が泣きそうな声を出すので慌てて)いいの、春さん、いいのよ、何て顔をなさるの。いいのよ。
春子 ごめんなさいね、私がこんなだから……
敦子 そいじゃ金吾さん、どうせ山なんて登れはしないけど、そこらの谷の登り口辺へでも連れて行って下さらない?
金吾 じゃ行きやすか、金太郎お前も来るかや?
金太 うん、行くべ。
春子 (忽ち嬉しがって)どうも、ありがとう。さあ、お仙ちゃん、行きましょう。金太ちゃんが一番先に立って。ジョン、おいで!(もう既に駈けぬけた犬が向うで吠える)
敦子 あらら、げんきだわね。(歩き出す)
金吾 ははは。金太よう
前へ 次へ
全309ページ中241ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング