これがびっくりしてね、ハハ、ハハ! いやいや、金吾君、かくさないでもよろしい。こういう、直ぐ何でもおかしがる子だ。決して失礼な気持で笑っているんじゃない。そういう立派な手は東京あたりにはもう見られないもんだからね。
壮六 ハハ、そうでやすか。なんしろ、永いこと重いマン鍬なんど使っていやすと、ゴツくなりやして、中でも金吾のはここらでも大将でやす。
勝介 (笑いを引っこめて)いや、そういう手が日本の土地をひらいたり、山に木を植えたりしてくれるのだ、うむ!(金吾に)なにかね、君は将来この奥で高原地の農業やりたいそうだな?
金吾 ……はい、はあ。(口の中で)
勝介 結構だ。まだ若いようだが、いくつになったかね? え?
金吾 あの……(言葉が出ない)
壮六 (見かねて引きとって)二十四でやして。同い年で、私と。
勝介 そうかね、そりゃ……これからだ、すると、これから、諸君の時代だ。明治も今年は四十年だ、わしらみたいな天保生れの老骨はソロソロひっこんで、諸君が引きついでくれなくちゃならん。そうだ、寒い地方の農業、ことに高原地の農業は日本ではまだあまり研究されていない。ただなり行き次第でやられている
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