ら、この、手でも洗わねえじゃ、泥だらけだ。
壮六 開墾百姓が泥だらけの手してるなあ、あたりめえずら! あとでええよ、馬車あ待ってんだ。(急な崖道を勢いをつけてトットと走りくだる)
金吾 だけんど、足元から鳥が立つみてえに……(これもトットットッと走りくだる)
壮六 おっとっとっと! ハハ! ああい、お待どおさまでがした!(二人が崖道を走りおりて道に出るまでの足音。それにマイクが附いて行く。それに向うから馬車の中で春子の歌う「花」の軽快な歌声――第二番の歌詞。馬車の窓べりを手で叩いて拍子をとりながら――入って来て、急速に寄る)
壮六 (それに近づいて行きながら)……黒田先生お待ちどうでございまんた。
勝介 いや、御苦労。どうかな、行ってくれるかね?
壮六 へい、参ります。これがその柳沢の……(と背後を振返る)
勝介 (それに向って)やあ、とんだ事をお頼みして、御迷惑をかけるねえ。
金吾 いえ、あの……おはつにお目にかかります。(キチンとていねいなお辞儀をしてから頭を上げて)――どうぞ――
春子 (川の方向を向いて歌っていたのが、この時フッと歌をやめて、こちらを向きながら)ねえ、お父様、あ
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