オょ。急にイヤになることがあるの。おさらいなんかしてる時にヒョッと信州思い出すと、三味線なんか放りだしてしまって駆け出して小父さんとこに行きたくなるの。
金吾 そうでやすか。……いや実はお母さまから手紙がきやしてね、敏子さまが芸者になると書いてあるもんで、俺あ心配になって、こうやって出てきやしたけどね、お母さまは今どこにいらっしゃるんで? 麻布の石川さんという内にも行きやしたけんど、そこにもいらっしゃらねえし、そこの女中さんから教えられてこっちへ来やした。
敏子 お母さん、三四日前にチョッと私んとこに寄ったわ……小父さん、この向うへ渡りましょ。向うが公園でね……(二人が急ぎ足で電車道を横切って行く足音)ほら、一杯木があるでしょ? あたしつらくなると時々ここへ来ちゃ、お母さんや小父さんのこと考えてるの。このベンチに掛けない?
金吾 (並んでベンチにかける)……そいで、お母さまはどこへ行かれたんでやしょう?
敏子 それが私にもハッキリ言わないの。横浜の敦子小母さまの所に行くんだとか、秩父のセメント山の方へ寄るとか言ってたけど。横浜の父がああして私の事でチョイチョイ来るし、それから横田の小父
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