そんでも日本国のタンボはふえるべし。
壮六 そんでもさ、飽きもしねえでよ!
金吾 飽きもしねえのは、俺だけかよ? 農事試験所で農林なんとか号のモミつぶなんぞ抱いて寝たりしているなあ誰だっけ?
壮六 あっははは!
金吾 は、は、は……
壮六 おっと、かんじんの用件忘れちゃ、あかんわい阿呆め!
金吾 なあんだ、阿呆はおのしずら、ハハ。県庁から言われたと?
壮六 うん、ひとつ頼まれてくれ金吾。なんでも農林省の偉えお人だ。ううん、農林省と言ってもお役人じゃ無え、そこの山や林なんどの、ええと、顧問とかって、学者だ。黒田博士と言ってな、それがこの奥の野辺山へんを見てえそうだ。県庁の山林にいる斉藤さんのもとの先生だつう。いやいや、こんだは県の仕事で来たんではねえから命令では無えつうんだ。なんでも、この奥の良さそうな所に別荘でも建ててえような話でな。急に案内してくれろって言われてな、ここまでは俺が案内して来たが、これから奥はお前がくわしいからなあ。お前を頼んで見ようてんで、この下に馬車あ待たしてあるんだ。
金吾 へえ、すぐこれからか?
壮六 うん、頼まれてくれ。清里の方へ出て、あれから小淵沢へ抜ける
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