_ンダンとなくなる。それだけに、気持の底には深く深くあの人のことを思いながら、まあ嵐が過ぎて、海が凪いだような状態といいやしょうか、それはそれでわりに落ちついた十何年でやした。いやあ、金吾にとっちゃ、そうは言っても、雨が降っても風が吹いても思うのは春子さまのことで、年中、辛いことだったでやしょうが、しかし金吾という男は、胸の中がどんなに苦しくても、そのために身をもち崩したりするような奴じゃなかった。いや、胸の中が苦しけりゃ苦しい程、百姓仕事に打ち込んで働らくことで、その苦しさをこらえようとしていたとも言えやす。だもんだから、金吾の家の農事はグングンとうまくいきやしてね、田地も山林が二町歩、畑や田圃を合せて二町歩の上にもなりやして、ことに高原地の水田にかけちゃ、ここらきってのいい百姓になりやして、県や郡から賞状をもらったり、しまいには国から勲章も二つばかりもらいやした。それやこれや、金吾の家にも嬉しいことの一つや二つはその間もありやしてね……これはその一つで、現在の金吾のあの家が建ちあがった年のことを、俺あはっきり覚えていやす。あれはなんでも昭和に入ってしばらくした出来秋のことだ。そうだ
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