Bそこへ、カバンを持って金吾が近づき、そのカバンを馬車の上にのせる。ガタンというその音)
春子 金吾さん、ゴム輪のにして下すったわね。ありがたいわ。
金吾 はい、いえ。……なるべく前の方の、その座ぶとん敷いたとこにおかけになって。ええと……(改って、お辞儀をして)……お帰りなさいやし。
春子 え、なあに?(と言ってから、相手のリチギにホロリとして)……はい、たゞ今、帰りました。(しかし直ぐにおかしくなって笑いを含みながら)いえね、向うから帰って来て直ぐおたよりしようと思いながら、ツイ今までごぶさたしていて。二年ぶりになりますかしら、こちらに来るの?
金吾 いえ、ちょうど三年になりやす。
春子 そんなになるかしら?
金吾 馬車あ、すぐに出しやすか?
春子 どうぞ。
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金吾が馬車のたずなをほどき、馭者台に乗りこむ音。
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金吾 おおら!(馬のひずめの音と、馬具のどこかに取りつけた土鈴が微かに鳴って、ギイと馬車が動き出す)
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小さい町の子供たちが二三人でヤーイと呼ぶ声。犬がちょっと吠える。――(田舎の小駅を囲んだ小さい町
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