Aお二人さまだけで?
春子 あ、そう。私たちだけ。主人は後で来るの。あのね、荷物が、あすこに二つあるんですけど。
金吾 承知しやした。わしが持って行きやすから、向うのあの馬車にお乗りなして。(と自分はプラットフォームに出て重いカバンを二つ運びに行く)
若い女一 (駅前を通りかかった土地の女。連れの女にヒソヒソ声で)わあ、ごらん竹ちゃん、きれいなシトだなあ。まるで花みてえだ!
若い女二 ほんとに! 華族さんかなんかかな? なんと言う洋服だろ、あれ?
若い女一 どこさ行くのかな? ああ、あの馬車に乗るだな。
春子 (待合所の外の砂利を踏んで馬車の方へ。鶴の下駄の音もそれにつづく。マイクは彼女たちを追う)……ああ、ゴム輪の馬車にしてくれたわね。ありがたいわ。以前みたいに普通のだったら、どうしようかと心配していたのよ。ガラガラやられると嬢のオツムに響きやしないかと思ってね。
鶴 さようでございますか。
春子 これなら大丈夫だわ。あら、よく寝入ってしまったわね?
鶴 ゆれるので、かえってお気持がいいのでしょうか?
春子 鶴やくたびれたでしょう、重くて。さ、乗りましょう。(馬車に乗る。ギイギイと音
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