ノ相抱いて震えながら耳をすまして立っている二人。
それに向って吹きあげてくる谷川のひびきと、再び風の加減でガラガラと迫ってくるトラクターのひびき。
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[#3字下げ]第16[#「16」は縦中横]回[#「第16回」は中見出し]
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敦子
金吾
お仙
金太郎
春子
敏子
杉夫
木戸
男の声
音楽
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敦子 (語り、中年過ぎの)はあ、その時のことは、春さんと金吾さんからずっと後になって聞いたんですの。私が県道の傍で金太郎ちゃんやお仙ちゃんなどと歌っている間に、その奥の崖の上で、金吾さんと春さんが、もうちょっとのところで、崖から飛び下りて死ぬところだったのです。つまり、年のいった金吾さんと春さんが、まあ、心中するところだったわけですねえ。
……まるで小さい子供のようになってしまった春さんの頭が、なんと思ったのでしょうか、急に若い時分から私がホントに好きだったのは、金吾さん、あなただった、と言ったそうです。そして、私という女は自分のホントに好きな人のところへは、生きてる間は行けない、だからここで一緒に死のうと言ったそうです。そいで金吾さんもフラフラッとその気になったそうですの。
そいでも二人が死ぬと、敏ちゃんや私や、そいからお豊さんや壮六さんが悲しがるから死んではいけない、と金吾さんがそう言うと、春さん一とき考えていたそうですけどね。そこへトラクターの音が、まるで機関銃のようにひびいてきて、そいで春さん、ホントに恐がって、戦争がくる、戦争がくると言って、また崖からとび下りようとしたそうですけどね、その音をきいてこらえている間に、谷底へとび下りるキッカケをなくして、死なないですんだそうでしてね。何のことはない、春さんがあんなに恐がっていたトラクターの音から心中するのを助けて貰ったようなものだ、と金吾さんは寂しそうに笑っていましたっけ。
人間生きているといろんなことがあるもんですね……まあ、そんな風にして私は落窪で二三日暮して、一人で横浜へ帰って来ましたが、そうです、あれから二月も経たない、その年の暮に真珠湾攻撃ということがあって、いよいよ大戦争が始まってしまいました。あちらもこちらも、上も下も、もう、てんやわんやと言いますか、息もつけないような有様の中で、すべてのことが変って行きました。でもまあ、あんなに戦争を恐がっている春さんのためには、野辺山にああして過ごしていられれば何よりだと思っていましたところへ、またヒョンなことで、こちらへ春さんが出てきてしまうことになったのです。
それは、敏子ちゃんをあんな風にして、新橋の置屋から私の手許に引きとって以来、私の主人の貿易の方の店の方に、会計その他の仕事をやらせて四五年たちましてね、それは綺麗な娘さんになりましたが、恰度私達夫婦に子供がありませんので、広島の方の私の親戚から杉夫という甥を引取って養子にしてありましてね。
その杉夫に私達の内を継がせるということで、恰度暫く前から出していた銀座裏の支店を杉夫に委せてやらしていまして、そこへ敏子ちゃんを会計係として置いてあったのですが、この杉夫と敏ちゃんが、想いあうようになりましてね、それが両方とも浮いた気持でないということがよく分ったものですから、近い将来に結婚させてあげようと思っていたんです。
春さんにも相談しましたら、春さんも大賛成で……そこへ大東亜戦争が始まる。で学生時代に肋膜をやったりしていたために、兵隊の方はなかった筈の杉夫に、急に召集令状が参りましてね、仕方がありません、一週間ばかりのうちに、広島の部隊に入隊するということになったんですが、さあ、そうなって困ったのは杉夫と敏ちゃんのことで、杉夫の方はこの際結婚のことは一応破談にして入隊すると言います。
しかし敏ちゃんの方は、この際、ぜひ結婚式をあげてくれと言って、泣いてたのむ始末で、両方で自分の考えを言い張って、どうしても話がまとまりませんの。
春さんに相談したくても、遠い信州で、それに頭があんな風になっておいでだし、横浜の敏行さんに相談したくても、これはもう、よりつきもしない有様で、そういってる間にも、広島の部隊に入隊しなければならない日は迫ってきます。
どうにも決めかねて、とにかくにもというので、野辺山の春さんの方へそう言ってやったのです。しますと……。
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凍てついてゴツゴツした小道を、春子、お仙、金太郎、金吾の四人が、駅の方へ急いで行く足音。先頭にジョンが駈け廻りながらついてきながら、時々吠える。
ビューッと風の音。
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金吾 そいじゃな、お仙ちゃん、お父うやおっかあによくそう言ってくれろ。春子おばさんがどうしても東京へ行くと言ってきかねえから
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